Last Up date:2003-12-6

■ステージ4 -恒星間飛行船“ヒップライナー”-
半田利弘 東京大学、科学技術館ユニバース(handa@ioa.s.u-tokyo.ac.jp
野本知理 東京大学、ちもんず(http://T.NOMOTO.org/

要旨
 科学技術館ユニバースでの演示を主な目的として開発した3Dコンピュータシミュレーションソフトの1つ“HippLiner”を用いて、太陽系を飛び出し、その先に何千光年と広がっている“星座の星”すなわち恒星が分布する世界をコンピュータ画面で旅する。何十光年、何百光年にも及ぶ視点の移動や、太陽系周囲の恒星分布を“太陽系近傍恒星地図”として示すことで、宇宙に於ける太陽系の立場を客観的に捕らえるきっかけを与えることができる。また、太陽系から見た恒星の分布が何千年にも及ぶ時間の変化を加速表示することによって、人類の生活や文明を基準としたタイムスケールに捕らわれない現象を実際に示す。これらを示すことによって、実際には目にすることができない巨大な空間的広がりや時間的変化であっても縮尺して模型化することによって理解可能であることを実例とし
て示す

1.木よりも森を見る
 宇宙への人々の関心はかなり高いものであるが、我々自身がその中に含まれている、あまりに広大な存在であるが故に、その理解が困難であることは歴史的にも示されてきた。また、変化に要する時間が人間の一生に比べても桁違いに高いために、日常生活で変化自体に直接気づくことは希である。このため、天文学や宇宙は“実体験が伴わない分野”とされる傾向にあったが、視点の転換によって様々な現象を統一的に解釈できるということは科学的に極めて重要であり、天文学こそがそれに最も適した分野であることは明らかである。そして、このような日常生活とかけ離れた尺度を理解するのに最も有効な手法は縮尺を導入して模型化することである。
 実体を持つ模型を作成・提示することも大きな効果があるが、宇宙空間は3次元に広がっており、運動も伴うことを考えると、コンピュータによって実時間に任意の視点から見た画像を合成することで直観的に訴えるプレゼンテーションを示すことが可能である。この手法が効果的な天文学的テーマは多々あるが、ここでは恒星分布とその集団としての天の川銀河を取り上げることにした。関係者の間ではよく知られたことであるが、天文学の話題で広く関心集める対象は太陽系と宇宙の果てという両極端に分化している。両極端に離れているために、太陽系と宇宙全体との関係とは、ほとんど理解されておらず、この点ではコペルニクス時代とほとんど変わりがない。もちろん、両者を繋ぐ分野での研究成果には一般の関心を呼ぶ可能性があるものは多数あり、実際の天文学研究においても多くの研究が恒星や恒星間あるいは銀河を対象として進められている。
 一方、1990 年代には、11 万個に昇る恒星についての年周視差測定が行われ、その値が学術論文として公刊されている(ヒッパルコス衛星によるヒッパルコス星表)。そこで、我々は、このデータを利用して太陽近傍恒星の3次元分布として表示するソフトウェアを開発した。これが“HippLiner”である。
 ヒッパルコス星表に基づくデータを用いた恒星間を移動する高速船(ライナー)と恒星間に3次元的な線画を描画できる(線引き器)との掛詞となっている。

2.HippLiner の特徴と投影モード表示
 HippLiner は11 万個の恒星の3次元分布を元に、恒星間の任意の場所から見た任意の方向の星空を再現することができる。恒星の距離測定には様々な誤差要因が含まれるので、いろいろなデータを総合評価することも考えられるが、データの一様性を重視して、我々は敢えて補正などは行わずに、ヒッパルコス星表に掲載されている年周視差のみを用いた。
 ヒッパルコス星表の等級データを用いて、距離による等級の変化も再現した。星表のデータには2つの測光バンドの値が掲載されているので、これを利用して恒星の色も再現している。これには、実際の夜空に比較的高いような色表示のモードと星の色の違いを特に強調したモードの2つを用意している。
 恒星の分布は点の分布に過ぎないので、一般には関連が掴みにくい。そこで、星座を示す際によく用いられる星座の概形線画(以下、星座線と呼ぶ)を併用することにした。地球から見た星座を示す星座線を対象恒星と3次元的に結びつけることによって、任意の恒星間空間から見た星座の形を示すことができる。これによって、星座の概念が太陽系の位置に強く限定されたものであることが容易に理解できる。また、既存の星座のみならず、目的に応じて、適宜選択した恒星を結ぶ線を新たに追加すること機能もソフト本体に内蔵している。
 HippLiner は単純に恒星配置を示すだけではなく、任意の恒星を選択することで、そこまでを任意の速度で移動する動画を実時間合成する機能を持つ。これによって、あたかも超光速で恒星間を移動しているような印象的な表示をすることが可能である。また、任意の恒星の周囲を旋回表示することが可能であり、恒星集団の立体的配置を直観的に示すのに有効である。
 また、HippLiner ではヒッパルコス星表に記載された天球上での固有運動と視線速度もデータとして保持している。このため、等速直線運動の近似の下ではあるが、任意の時点に於ける恒星の3次元分布を示すことも可能である。この機能を用いると、地球から見た天球上での固有運動ベクトルが揃っている集団としての近傍星団(ヒヤデス星団など)の存在をアピールすることができる。

3.HippLiner による地図モード表示
 HippLiner では特定の視点からの展望を示すだけではなく、地図のように恒星分布を客観的に示すモードも持つ。この時、恒星の明るさは絶対等級によって示すことができる。これによって、太陽系近傍の恒星の分布やより遠く恒星分布を3次元的に示すことが可能である。
 ヒッパルコス衛星の観測限界のため、データは太陽近傍に偏重したものではあるが、表示する恒星の絶対等級を明るいものに制限することで、比較的広い範囲で現実に近い恒星分布を示すことが可能である。これによって、恒星分布は1000 光年以上のスケールでは一様ではなく、円盤状に集中していることが明瞭に示される。
 星座線を示す星座を銀河面のものに限定することで星座の配置を通して、この円盤面が天の川とほぼ一致する方向であることを示すことも可能である。


図: オリオン座へ向かう恒星間飛行のイメージ。
ちもんずによるユニバース紹介ページ
(http://universe.chimons.org/)より。

4.今後の展開
 HippLiner には、今回、演示した以外に、銀河面に対する恒星の位置を静止画でもわかりやすく表示する機能や、別の学術文献より入手した近傍の散開星団の分布を示す能力を持つ。また、天の川銀河を離れ、近傍の銀河分布を示すこともできる。
 これらを含めて、更に機能を拡充の予定である。
 HippLiner を導入として太陽系外の天文研究を広く紹介し、それらへの関心を高め、「目に見えるばかりが全てではない」という認識を広く持ってもらえるような演示方法をさらに追求していきたい。
 HippLiner は開発に当たった野本によりフリーウェアとして公開されており、http://T.NOMOTO.org/HippLiner/ から入手可能である。また、意見交換やサポート用の掲示板(http://universe.chimons.org/bbs/)および(http://T.NOMOTO.org/bbs/)も公開されている。


 

■ステージ
空気の力と力比べ
進化って何?どうやっておこるの?
科学の芸人養成講座
恒星間飛行船”ヒップライナー”
クォークをあなたの身近に!
■ブース
星を手にとって確かめ学ぶ小四の星学習
磁石を見る-磁界の分布を可視化する-
言葉を見る
雨粒をつかまえよう
気体をつかまえよう!
花粉を覗く
簡単な実験や教具で確かめる宇宙

 

 


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