Last Up date:2003-12-6

■ステージ1 -空気の力と力比べ-
東郷伸也(stogo@mb.infoweb.ne.jp) 京都市青少年科学センター・ONSEN

1.大気圧に関するステージ実験の開発に際して
 真空,あるいは大気の重さという目に見えないものの概念を机上の学習だけで理解するには大変難しく,それ故に学校の授業では以前より様々な実験を行ったり,科学小話を挿入するなどの工夫がされてきた。ところがその多くが導く結論は,「だから大気圧は非常に大きい」という漠然としたもののみで,「大気圧の大きさは具体的にどのくらいの大きさなのか?」を実験から検証することは後回しにされてきた感がある。今回の実験ステージは,そのような反省の上に立ち,より正確で効果的な実験方法を求めるところから始めた。


図1 自作吸盤

2.より正確で効果的な大気圧実験
 今回の実験ステージを組み立てるに際して,改良や開発をした実験教材とそれに関する考察をまとめてみる。
(1)ゴム板で作る自作吸盤
 これは1枚のゴム板でできた吸盤で(図1),オリジナルは「ゴムピタ君」として埼玉県の石井登志夫氏が考案,命名したものである。板状の天然ゴムを正方形に切り,中央部にねじ穴をあけつまをつける。これを滑らかな面に置きつまみを引き上げると,大人の力でも引き離すことは困難である。子どもの興味も十分に惹きつける。
 この実験について,大気圧が約1kg 重/cm2であることから,例えば「10cm×10cm のゴム板では100kg重の力で引かなければ離せないはずだ」という説明がされることがある。しかし本当にその説明でよいのであろうか?この吸盤を透明な板に張り付け引いているときの様子を裏側から見ると,実際に吸盤の働きをしているのは中心部
だけであるように見える。そこで自作吸盤の正確な吸着力を次のような実験で検証してみた。
1)方法
10cm×10cm,2mm 厚のゴム板を滑らかな机上に置き,中心につけたつまみをバネはかりで垂直に引き上げる。ゴム板が離れた瞬間のはかりの値を「吸着力」として記述する。
続いて面積,厚さを変えた3種類のゴム板(15cm×15cm2mm 厚,10cm×10cm5mm 厚,15cm×15cm5mm 厚)でも同様の実験をする。
2)結果
表 ゴム板の種類と吸着力

ゴム板

ゴム板の面積
(cm2)
吸着力
(kg 重)
有効面積
(cm2)
有効面積の割合
10cm×10cm,2mm 厚
100
24
24
0.24
15cm×15cm,2mm 厚
225
30
30
0.13
10cm×10cm,5mm 厚
100
51
51
0.51
15cm×15cm,5mm 厚
225
79
79
0.35
※なお表中の「有効面積」とは,ゴム板が実際に吸盤の役割をしていると考えられる面積を表し,次の式で算出した。
(有効面積[cm2])=(吸着力[kg 重])÷(大気圧[1kg 重/ cm2])
※また表中の「有効面積の割合」とは,「ゴム板の面積」に対する「有効面積」の割合で,次の式で算出した。
(有効面積の割合[%])=(有効面積[cm2])÷(ゴム板の面積[cm2])
3)まとめ
・2mm 厚の結果と5mm 厚の結果を比べると,ゴム板の面積が同じでも5mm 厚の方が吸着力は大きくなることが分かる(2倍以上)。これはつまみを引いたときのゴム板の形の歪みに関係していると考えられる。薄いゴム板では周辺部で歪みやすく,吸盤として働く有効面積が小さくなりやすい。
・15cm×15cm のゴム板は10cm×10cm と比べると,いずれの厚さでも吸着力は大きくなる。しかし,面積が2倍以上大きくなっているのに,吸着力は1.3~1.5 倍程度にしかならない。つまりゴム板が大きくなると,吸盤として働く有効面積の割合は小さくなる。
・以上より,自作吸盤の吸着力を,単純にゴム板のタテ×ヨコのサイズから求めるのは間違いであり,このことをふまえて実験解説をする必要がある。

図2 自作マグデブル半球
(2)マグデブルグ半球の実験
 2つの半球を合わせてその中を減圧し,半球の引き合う力を体感する実験は17 世紀にゲーリッケが行った有名な実験で,今も多くの学校で行われている。よく行われている方法は2つあり,市販の半球と真空ポンプを用いる方法と,家庭用のボウル内でアルコールを燃焼させそれが冷えるときに減圧して引き合わせる方法である。いずれの方法も,減圧する過程が子ども達にとってブラックボックスになっている。そこで,ゲーリッケが行ったように,手動真空ポンプを用いて減圧の過程も体感できるような自作マグデブルグ半球を製作した。
図2に示した装置は,2個のボウルと簡易真空ポンプからなる。簡易真空ポンプは注射器と逆止弁でできている。
またボウルには観賞魚のエアーポンプ用のボールバルブがハンダ付けしてあり,簡易真空ポンプからのチューブが接
続できるようになっている。この真空ポンプで約1/6気圧程度まで減圧することができ,実験には十分な性能である。
ボウルの直径が20cm として1/6気圧まで減圧したときの吸着力は次の式で求められる。
((大気圧[kg 重/ cm2])−(半球内の気圧[kg 重/ cm2]))×(断面積[cm2])≒260kg 重
参考までに,市販のマグデブルグ半球は外径118mm 程度(島津理科調べ)であるので,市販の真空ポンプで減圧したときの吸着力はおよそ110kg 重である。また。アルコールの燃焼による減圧方法ではボウル内部を1/2気圧程度にしか減圧できないので,先と同じボウル(直径20cm)を使ったとしても吸着力は160kg 重程度である。これらの点を見ても,今回紹介する方法はかなり演示効果が高いと思われる。
 

■ステージ
空気の力と力比べ
進化って何?どうやっておこるの?
科学の芸人養成講座
恒星間飛行船”ヒップライナー”
クォークをあなたの身近に!
■ブース
星を手にとって確かめ学ぶ小四の星学習
磁石を見る-磁界の分布を可視化する-
言葉を見る
雨粒をつかまえよう
気体をつかまえよう!
花粉を覗く
簡単な実験や教具で確かめる宇宙

 

 


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